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あちゃー。。。 ⇒ そうなりますか。。。

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::004:: >> 向登男

芳川とは、高校の時同じクラスに2回なった。
とにかくよく笑う奴で、クラスではリーダー的な印象のある男だった。
彼と何故、僕が親睦を深める事になったのかはあまり覚えていない。

僕は高校時代、卑屈に歪んで毎日を過ごしていた。
世界から少し離れたところから物事を見るような、冷めた人生観を抱いていた。
授業もサボり気味で、部室にこもってマンガを読んだり、家で寝ていたりした。
僕の高校は地元では名門と詠われる男子進学校で、僕はそこに合格した。
しかし、学校全体に広がる根拠の無い優越感、形だけの自由に、
僕は入学後1年で嫌気がさし、うんざりしていた。
誰もが妙な自信に満ち、他校の連中をあざけり、罵っていた。
芳川は、しかし、そんな連中の中で唯一まともなバランス感覚を持った人間だった。

彼との初めての接点は何だったのだろう?
覚えていない。
だがやがて、僕と芳川はよく一緒に帰ったり、休日買物に行ったりするようになった。
時にはお互いの部活が終わるのをどちらかが待ち、帰りに一緒に夕食を食べたりもした。

芳川の事で一番覚えているのは、彼の口笛がとても上手かったという事だ。
彼は僕と自転車で帰る時や、休み時間、トイレ、歩きながらでもよく口笛を吹いた。
僕は今でも口笛が吹けないが、当時彼をとても羨ましく思ったのを覚えている。
お前、口笛吹けていいなー。
僕が言うと、芳川は笑って、口笛を吹いた。
口笛の音色は風に乗り、大きく揺らいだり、近くに寄り添ったりしながら、
自転車をこぐ僕らの前に流れていった。
それは、素晴らしい事だった。

芳川は高校3年生の夏、隣の某有名女子高に通う子に告白した。
その子の話は時々、芳川から聞いていた。
僕は正直に、彼なら上手くいくと思っていた。
芳川は学力もあり、スポーツも凡人よりは才能があり、将来の夢も持っていた。
なにより、生きる力に満ちていた。
自分の向かう道を正面から見据え、寄り道など考えもせず笑って進む人間だった。
僕は彼といる時間をとても嬉しく思ったものだ。
自分の悩みの小ささや下らなさに気付き、よく自分を恥じたものだった。
そしてコイツのように、芳川のように前向きに進もう、そう勇気付けられたものだった。

芳川は、フラれた。

彼は、告白し、失敗し、そのあとすぐに僕に電話をよこした。
「オレの顔は、好みじゃないんだってさ」
彼は簡潔に言った。
今から会おう。僕は言った。

深夜、僕らは高校の部室で会った。
芳川は僕に会うなり、泣いた。声を出して、泣いた。
「そうだよな。オレって、ブサイクだもんな。まいったよ。辛いなー」
そう言った後、彼は20分間泣いた。
僕はただうなずいて、芳川を見つめるしかできなかった。

その帰り、僕らは吉野家の牛丼を食べた。
芳川は、特盛を大口でかきこんだ。
「なんかさー、ヨシギュウってさ、『ハングリー精神』の象徴っぽくない?!」
彼はそう言った。僕は、そうだね、と言ってうなずいた。
そこで彼が笑い、僕は何か、救われた気がした。
とても蒸し暑い、夏の深夜の思い出だった。

現在、芳川は広島にいて、繁華街でお好み焼きを毎日焼いている。
最近はめったに連絡を取らない。
だが、昨年、手紙が来た。

「おうい! げんきかー? オレは何の因果か広島で働いとるぞ。
いつか、遊びにこいや。
相変わらずひねくれてんのかー?
でも、オレはお前のそういうとこ好きだぞ。貫き通せ!
またな。」

まったく。
僕は思う。
同性を、堂々と「好き」と言える奴なんてお前くらいだぞ。
と。

しかし、僕は芳川から多くの事を学んだ。
好きなものを好きという勇気。
愛されるには、愛することから始めるのだ、という生き方。
生活に「笑い」を添える素晴らしさ。
どんな辛い事も、泣きながら飲み込んでしまうパワー。

今思えば、彼との出会いがあの頃の僕を救い、今の僕を押しているのだと、時々思う。

僕は嫌なことがあったり、人生に嫌気が差すときは、ヨシギュウを食べる。

『ハングリー精神』の象徴っぽくない?!

芳川の言葉を思い出しながら、食べたりしている。

口笛は、さっぱり上達しない。
でも、それもいいだろう。
口笛を吹こうとするたび、芳川の無防備な笑顔を思い出す。

変わらないもの。
たとえ、離れていても伝わるもの。
それが、あるのだということ。

それを知った、高校時代の話だ。
それを教えてくれた、まっすぐな男の話だ。


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テーマ:小説 - ジャンル:小説・文学

::003:: >> 天音由佳里

私には特にセンチメンタルな気分を重要視するような習慣はなくて
だからTVドラマを観て恥じらいもなく
大泣きする人の気持ちは理解できないし
気の遠くなるような経路を経て
どこかの貧しい国に届くであろうチャリティー募金に
時間を注ぐ人達にも少し疑問を持っていたりして
だから私は今まで現実に自分を使って稼いだお金と
それで成り立つ生活だけを信じて生きてきたし
そしてそれが一番私らしい生き方だと思っていた

私はある才能を持っていて
それは遺伝なのかとも考えたけれども
親は平凡に平凡を上塗りしたような
弱小企業でサラリーマンをする父と
タオル製造業者でパートをする母と
一浪して一応は誰でも知っている私立大学に合格した弟の
そんな家族の遺伝子に私のような能力はないと思えるので
この能力は私個人の才能らしいと判断した

私の能力というのは単純な言い方で言ってしまえば
「未来予知」と言う事になるのだけれど
遠い先の時間や期間の事をあらかじめ知る事が出来る訳ではない
それは感覚としてはとても曖昧なもので
例えば視覚的に未来の映像が浮かぶ事はない
「約束された予感」とでも言い表せばいいのか
とにかくただ私には「分かる」のだ
この才能は小さい頃からあって私は自分で気づいてはいなかったけど
駄菓子屋で当たりクジを毎回引いたり
明日は雨だから出かけたくないとダダをこねたり
おばあちゃん死なないでと元気な本人を前に泣き叫んだり
とにかくそれはまるでドアノブが目の前にあったから引いてみた
というような「ただ」自然な才能だった
両親はあまりに私の言った事が実現するので
私を色々な病院に通わせたり祈祷を試したり
田舎にあずける相談をしたりと私の存在から目が離せない状態になった
母は自分の体内に何かがいると信じ込み
一時期頭が狂って消毒液を浴びるほど飲み1ヵ月入院した
父は私の思考がおかしくてそれによって特殊な力を持ったのだと信じ込み
良く分からないのだがマンガを山のように買ってきて私に一日中読ませたりした
しかし自我が確立されるにつれて私は私のこの才能が特異である事を知り
それを人にはあまり見せないようになった
両親も時間の経過とともに私の才能は一時的なモノだったと判断し
私に注意を払わなくなった

私はこの才能をもって生まれた事を素晴らしいとも思った事はない
実際この才能ゆえに私は怪我をした事はない
事故に遭ったこともない
変態に付け回された事もない
性格の悪い人間との関係に悩んだ事すらない
それは好きなモノだけを選り分けてそれだけをずっと
死ぬまで食べ続ける権利を持っているという事に似ている
私は自分が望まないような嫌な思いをした事がなかった
それを選り分けて避けて生きてきた
でもそれは幸せではないと思っていた
「苦」がないならば「幸」は感じ取れないのだと思った
だから私はわざと自分の腕をドアにぶつけてアザを作ってみたり
事故が起こるだろうと感じた場所に行き
事故に巻き込まれてやろうかと考え
思いとどまったりした

成長するにつれ私は
好きだと思える人が出来なくなっていった
自分の中の絶対信頼できる才能の力と
「好き」だという気持ちを信じる力では
明らかに才能を信じる力の方が強くなっていったからだ

それでも最初は恋をしたりもした
初恋は小学校3年生の時だった
その男の子の事を想うと自分の胸のあたりがポォッと熱くなり
これが「好き」なのかと思った
でも私はその男の子とは両想いにならない事を知っていた
私は悩んだ
恋が上手くいくおまじないを無駄だと知りながらやってみたりした
布団の中でうずくまり神様の声が聞こえるのを待ったりした
でも聞こえて来なかった
最終的に私は自分の才能を裏切る事が出来なくて
初恋は2ヵ月で消えた
私は「好き」だと思えても才能の力を信じ
上手くいかないと感じた相手からは離れていく習慣に専念した
初恋のような自分が二つに裂けてしまうような思いはしたくなかった

やがて私は中学高校短大を経て就職し
自分のお金で生計をたてられるようになった
もはや言うまでもないがそれまでの私の生活には
大した苦労もなかったし大した喜びもなかった
友達や世間が熱中するような類の
アイドルや恋愛映画や旅行なんかには全く興味が湧かなかった
ただし人間関係上で話を合わせる必要があったので
最低限の流行は勉強するように努めた
つまり私にとっては世間の流行というものは
数学や物理と同じ「必修科目」の感覚でしかなかったのだ
だからやたらとブ厚くて中身のないファッション雑誌をめくるのは
大変な苦痛でしかなかった

その男の第一印象は「嫌な奴」だった
一応私にも「生理的」な感覚はそれなりの主張力を持っていた
男は私から見て「生理的に」嫌いなタイプだったのだ
背はさほど高くはなかったがとても痩せていたので
男はスラリとした長身の優男に見えた
彼は同じ職場の違う部署の人間だったが
身の回りの女性からは何故か評判が良かった
それがさらに私の嫌悪感を高めていた
彼は社内ではヤリ手だと評価されており
後輩や動機や上司とのコミュニケーションや
顧客との接待もマメにこなしているようで
実際彼の業績は常にトップクラスだった
彼は同性にも異性にも平等に優しく頼もしいように見えた
でも私は何故か納得できなかった
彼の媚びた様な笑顔が嫌いだった
時折見せる他人をかすめとるような視線が嫌いだった
白々しい大げさなリアクションが嫌いだった
職業柄とはいえその口の上手さが嫌いだった
簡単に言ってしまえば
彼は私にとって全てが「嫌な奴」だったのだ

彼は付き合い上手で
とにかくやたらと色々な人間と交流を持っていた
私の知る限りの彼は
週末は上司と飲んだりゴルフをしたり
平日は職場の男や女を誘って飲み歩いたりしていた
休日街でよく彼を見かけたが
毎回違う女性を連れてドライブしていたり
楽しそうに街中を歩いていたりした
それを目撃するたびに
私の彼に対する嫌悪は根拠のない憎悪に変化していった
職場の女性の噂では
彼には長い付き合いの彼女がいるとのことだった
しかし
あんなにいつもいつも違う女と遊びまわっている男の素性を
果たしてその彼女は知っているのだろうか
知っていても許しているのだろうか
何故許そうと思えるのだろうか
だまされ続けているのだろうか
私には理解できなかった

その男がある時
私を食事に誘ってきた
私は反射的に警戒したし嫌悪した
男は満面の笑みで私を無理なくスマートに誘っていた
そう演技しているように見えた
この男は私の職場の女性を均等に遊びに誘っていたし
その中で悪い噂は何故か一つも立っていなかった
しかし私はこの男を生理的に嫌悪していたので
私は彼の誘いを即座に断ってやろうと考えた
しかし
断れなかった
私はその時の感触を今も忘れられない
私の「才能」が
「この男は運命の人」だと断言したからだった
そんなハズは有り得ない
私の「生理的な」思考はそう訴えた
私は惑った
今まで生きてきて
私の「才能」が私を裏切った事は一度もなかった
だから私は初恋の男の子を大好きだけど諦めた
その事に後悔はなかった
今回はその逆だと言う
大嫌いな男が私の「運命」だと言う
私は惑った
しかし
しかし
しかし
結局私はその大嫌いな男と食事に行ったのだった

男は優しかった
それは明らかに演技の優しさだと私は疑っていた
それなのに
彼に誘われる回数を重ねるたびに
その疑惑は心の奥に小さく折りたたまれるようになってしまい
数ヶ月を経た頃
私は彼への嫌悪を失っていた

彼はどんな時も優しく
色々な笑顔を知っていたし
色々な言葉を知っていたし
色々な表現を知っていたし
色々な身振り手振りを知っていたし
色々な女の抱き方を知っていたし
色々な言い訳も知っていた

初めて彼に食事に誘われてから1ヶ月目に
彼は私を好きだと言った
それから2ヶ月目に
彼は約束事のように私と会うようになった
それから3ヶ月目に
彼は私を抱いた

私は受け入れるしかなかった
「才能」は私を裏切らないと私は知っている
私は受け入れるしかなかった
そう
「受け入れるしかない」と考えていたはずなのに
いつしか私は彼を好きになっていた
虚構と真実を上手くこね合わせたような彼の存在は
それでも私にとって不可欠なモノになろうとしていた

彼は私を好きだといったけれど
彼には長年付き合っている彼女がいた
それを彼は隠さなかった
しかしそれでも彼は私を好きだと言い
何故か私は男のそのいい加減な感情を許していた
彼との曖昧な交際は緩慢に続き
2年の月日はだらしなく干された濡れタオルのように
不可抗力を言い訳にするようにただ時間に流された

私の「才能」はいつまでたっても
彼を「運命」だと言い続けていた
そして
そのことに対してもう
私も何の反論も持たないようになっていた
ただ
奥深い欺瞞と嫉妬が私を襲うようになっていた
彼は相変わらず高い業績を記録していて
相変わらず社内でも社外でも付き合いの上手な男だった
会社の女性からも変わらずの好印象だった
私たちが肉体関係込みの交際を続けている事は
誰にも知られていなかった
彼がそれを防いでいたわけではないし
私も別段隠していたワケではない
いや
むしろ私は私たちの関係を
周りの人間に言いふらして回りたかった
少しでも「彼を独り占めにしている」という感触が欲しかった
でも
私はそうしなかった
何故なんだろう
とにかく
私はそうしようとはしなかった
だから
私は彼と会えない時間を独りで耐えた
不意にもしくは一日中私を支配して離さない
彼への薄暗い感情の渦に
私は独りで耐えた
そうやって
私が自分の部屋でじっと閉じこもっていたり
集中できないままTVを見たり
独りで食事をしたり
気のないままに友達と電話をしたり
大して楽しくもない話題で愛想笑いをしたり
苦しさから逃れるために色々な本を読み漁っている間にも
彼は他の女と一緒にいて
話し
笑い
うなずき
ちょっかいをだし
気遣い
手を差し出し
女の肩に触れ
頼られたりして
気持ちを通じ合わせて
ベットで抱き合っているのだろう

私は自分がドンドン醜い生き物に変化していると思った
今や
私は「嫉妬」を食べて息をしている愚かな女だった
彼と一緒にいて
彼をそばで感じて
彼に抱かれて
彼と一緒に眠る夜
その時だけは全ての哀しくて救いのない感情を
忘れることが出来た
でも
交際は続いているとはいえ
彼と一緒にいられる時間は限られていた
彼には彼女がいたし
彼は私を愛していると言い続けていたけれど

私は彼の彼女ではなかった

しかし
私はその事実を肯定していた
そしてその裏側でそれを否定しようともがいていた
だけれども私は「才能」を信じていたし
いつしか「才能」を「言い訳」にしていたのかもしれないけれど
とにかく私は彼から離れることはできない人間になっていた

彼と会えない日は
一日中彼のことばかりが頭に張り付いている生活が続いた
朝目覚めても
出勤のバスに揺られている間も
オフィスで働いている時も
上司にミスを責められている時も
年下の好印象な男性社員と話している時も
女友達とたまにお酒を飲みに出かけた時も
バスタブにつかって天井を見つめている時も
レンタルビデオに涙している時も
独りの寝床でうずくまる時も
私は彼のことを考え続けた
彼に対する
不安
疑念
嫉妬
憎悪
絶望
そんな後ろ向きな感情に
私はいつもいつも包まれて生活するようになった

時折
「彼は私にとって何なんだろう」
と考えたりもしたけれど
どんなに突き詰めても
冷酷になろうと思っても
勇気を出して結論を出そうと思っても
私は彼を手放す事ができなかった

私はとうとう自分の気持ちの動きが理解できなくなって
乱気流の中でコントロールを失った飛行機を想像したりする事が多くなって
あんなに現実を肯定して生きていた過去の日々が壊されたようで
私は自分が果たして正常なのかが分らなくなり
理解できなくなり
例えば食事をしている時なんかも
サンドイッチを「口で噛む」
という行為が正しい事なのかすら分らなくなったり
車を運転している時は信号が赤でも停車するべきなのか
青でも発進するべきなのか自信がなくなって
運転する事が恐くなって
一日中ファーストフードの駐車場でうつむいていたり、
コインランドリーのドラムが回転しているのから目が離せなくなって
気が付いたら3時間もそれを見つめ続けていたり
自分の髪の毛や歯が抜け落ちる夢をやたらと見るようになったり、
クレヨンをたくさん買い込んで
自分の手の平に穴が空くくらい様々な色をグチャグチャに塗りたくったり
鏡を見つめて
「忘れたい忘れたい忘れたい忘れたい・・・」
と一日中つぶやくようになったり
髪の毛をメチャクチャに切り刻みたい衝動を抑えられなくなったり
シャープペンの芯を腕に突き刺したり
大好きな犬のヌイグルミをキッチンの包丁で刺して焼いたり
愛という文字を憎んだり
1週間何も食べられなくなったり
眠れない夜をカレンダーに記録するようになった





ある夜
私は夢を見る
その夢を見る私を
私は夢想するようになっている

限りない愛情を体いっぱいに備えた男が目の前にいる
その男は
私を支配しているあの彼と
少しも似ていない
夢の男は私を見つめている
彼は私だ
私だけの神様だ
私はそう信じ込もうとしている



頭の悪いケチな人間が愛情を汚している
そういう奴等の軽薄な行動が愛情を正しくないモノに変えている
それに惑わされちゃダメだ
君が君らしく進んでいくには愛情から自由にならないといけない
愛情が君を自由にするんじゃないんだ
君が愛情から自由になる事で君は愛情を手に入れる事が出来るんだ
それを忘れちゃだめだよ



夢の男はそう囁く
囁いて私を導こうとしている
私は泣きそうになっている
泣き叫んでしまいたいと望んでいる

だけれども

現実の彼は私を支配し続けるのだ

きっと私は破綻するだろう

それでも

そうと分かっていても

私にはもう
彼から自由になれる方法がない

解放される術を見つけられない

きっと

見つけられないのだ・・・

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::002:: >> 縞乃尋下

縞乃尋下(しまのひろか)は33歳。もうすぐ34になる。
目が覚めるとそこは東京で、彼は長期出張を始めてかれこれ1年を迎える。
ベットから起き上がり、5分くらいじーっとしている。
今日、会社に行こうか。それとも仮病で休もうか。毎朝、考えている。
でもすぐに、それより朝食をどうしようか、と考え直す。気がつけば手にはリモコンがある。
テレビをつける。
民放を適当に切り替えて、最後には必ず、NHKの「おかあさんといっしょ」をみる。
最近、お兄さんとお姉さんが代わった。どちらも、昔の方が良かったと、思う。
お兄さんとお姉さんは、毎日、同じ笑顔をする。
そして同じ声のトーンで、「みんなぁー元気ぃ???」と、言う。
それが、好きだから、尋下はNHKをみている。

ぼてぼてと足をひきづって、浴室に向かう。
浴室はユニットなので、ドアを開けるとトイレが左側に、バスが右側に、同じ室内にある。
だいきらいだ、と毎朝、尋下はつぶやくことにしている。
きらいなものをきらい、と言い続けることは、きっと大事なんだ、と思うようにしている。
流量の少ないシャワーを浴びながら、昨晩のことを考えた。
帰宅して、ビールを飲み、その後のことはいつも、あまり覚えていない。
覚えていることと言えば、「昨晩のことは覚えていたくないんだ」という感情だけだ。
それを確認し、髪をシャワーで流しながら、呟いた。
「本当のオレん家のシャワーはもっと気持ちいいんだよ。。。」

通勤中にオガタから電話がきた。
オガタは尋下の上司であり、彼の会社の代表取締役でもある。
でも、尋下は電話に出ない。
(この時間帯は通勤中だから電話に出れないっていってんだろ。。。)
そう内心で叱咤し、携帯電話の「伝言」ボタンを押す。
すると、携帯電話はその不愉快な振動を止める。尋下はため息をつく。
きらいなものをきらい、と言い続けることは、きっと大事なんだ。
そう、また自分に確認するように心で呟きながら。

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::001:: >> Open the Hohmunn.

白だ。
かたかた、と音をたてている。
否、よく目を凝らすと、「白」と断言するべきか、迷うかもしれない。
時々、考え込むようにゆらゆらと、蠢いている。
ちょうど、正方形のように思える。でも、すこし違う気もする。
白い、部屋だ。本当の白じゃあないかもしれないけれども、白い部屋と言っていいだろう。

かたかたと、音を、たてている。
生暖かい感じがする。それでいて、どこかから隙間風が挿している。
誰かが寝返りを打ったような、小さで、大胆な気配がする。
そしてまた、一瞬静まったように、白い箱は沈黙する。

気を失って、目覚めた、その瞬間のように、
それはどこで、いつ起きたことなのか、誰も知らない。
そして、誰のために、それは開かれた世界なのかも、分からない。



>> Open Hohmunn;



何かが、打たれた音がした。
それに呼応して、何かがはじけた。
そんな気配がした。



>> Do RuCahMar;



いいようのない、曲線が降ってきた。
とらえようのない、くねった感情が落ちてきた。
そして、
のがれようのない、「それ」が、胸に沈み込んだ。


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